伊坂幸太郎の短編集である、
首折り男のための協奏曲。
数々の仕掛けが施された本作だが、
短編の集まりゆえ、
大藪の死因などの分からずじまいな部分もある。
今回は、大藪の死因について考えていく。
首折り男のための協奏曲の考察!大藪の死因について
以下、ネタバレも含まれている。
ネタバレフィルターは入っていないので、
読む際は注意してほしい。
小笠原を助けるために借金取りを殺した後、
なぜか突然死していた大藪。
その謎の死は、首折り男のための協奏曲を考察する上で
真っ先に上がる最大の謎だ。
首折り男のための協奏曲のレビューや感想を見ると、
大藪の死因の謎がひっかかってよくわからないという声が多い。
彼は眠るように死んでいたため、
どうやら他殺ではなさそうだが、
なら彼はどのようにして死んだのだろう。
私は、大藪について回る“バランス”の概念が原因だと考える。
彼は、殺しをする一方で誰かの助けになったり、
持病が発症したりすることで善悪のバランスを取っていた。
つまり、借金取りを殺したことで崩れたバランスを取るために、
彼は死んでしまったのではないだろうか。
また、『人間らしく』では、
“神様はいつもこっちを見ているわけではないが、
見ているときにはルールを適用し、
偏りを直す”というようなことが言われていた。
大藪は借金取りを殺した時にちょうど神様に見られ、
偏りとして直されたとも考えられる。
本作で垣間見えた伊坂幸太郎の神様観。
大藪の死因も、そんな神様の思し召しなのだろう。
首折り男のための協奏曲をネタバレ解説
ここからは、首折り男のための協奏曲の全7作品を
ネタバレも交えて解説していく。
1作目『首折り男の周辺』では、平凡な老夫婦である若林夫妻視点、
気弱な苦労人である小笠原視点、
いじめられっ子である中島視点で
それぞれの物語が展開される。
登場人物のそれぞれに大藪が関係しており、
大藪の存在によってそれぞれの人生が前向きになっていく。
2作目の『濡れ衣の話』では、
事故によって子供を失ってしまったシングルファーザーの丸岡が、
一切反省せず無免許運転までしていた加害者の女を殺してしまう。
そこに現れた首折り男の大藪が丸岡の罪を被り、
濡れ衣を着ることにしたが、
“時空のねじれ”によって結局は矛盾を抱えてしまうというもの。
ここでは、大藪が信じる“時空のねじれ”
について描かれている。
3作目の『僕の舟』では、
1作目にも登場した若林夫妻の妻の方である、
若林絵美がメイン。
20歳の時に出会った、銀座で4日間だけ夢のような時間を一緒に過ごした
思い出の男性を捜すため、探偵兼空き巣の黒澤に調査を依頼するが、
実はその男子学生は今の夫その人だった。
さらに、子どもの時に遊園地で一緒に迷子になって
仲良くなった男の子さえも、今の夫と同一人物だったのだ。
その男性を選んだとしても、その子どもを選んでも、
今の夫を選んだとしても、
“僕の舟”に乗るという結末に変わりはなかった。
運命について描かれた美しい作品で、
自分のお気に入りだ。
4作目の『人間らしく』は、
複数のクワガタの世話をする傍ら小説を書く作家が主人公だ。
普段は小説を書いているが、時々クワガタの部屋を覗いては
いじめられているクワガタを助けたり、
いじめをするクワガタを懲らしめたりする彼は、
「神様もこんな感じなんだろうな」と語る。
いじめや浮気など、人間らしくない生き方をする人たちに天罰が下るこの作品には、
「神様っているの?」
という疑問に対する作者なりの考えが解説された作品だ。
5作目の『月曜日から逃げろ』では、
作者の叙述トリックが光る。
3作目でも登場した黒澤とテレビ制作プロダクションの男との心理戦が
日付を追って描かれているが、実は時系列が逆で、
我々は後ろから読んでいたということが明らかになる。
途中まで違和感に気づけないほど巧妙に作られており、
最後に一気に伏線が回収されるのが面白い。
6作目の『相談役の話』は、
江戸時代の相談役にまつわる話をなぞらえたエピソードだ。
ある社長が息子に磯部という相談役をつけるものの、
周囲に優秀さを疎まれていた磯部が事故に見せかけて殺されてしまう。
その犯人は実は息子自身なのだが、
それをきっかけに息子の側近が次々と死に、
ついには息子も消息不明になる。
たたりのような現象が描かれており、
本作を通じて存在する人間を超える“何か”を感じられる。
7作目の『合コンの話』では、
それぞれの思惑を抱える男女6人の心理戦が繰り広げられる。
かつての恋人同士や友達のために合コンを使った復讐を企む幹事、
正体不明のさえない佐藤という男などという多彩。
首折り男が間接的に登場したこともあり、
不穏な雰囲気で進行していたお話だったが、
佐藤のピアノの演奏にみんなが感動するというホッとするラストになっており、
今まで感じたことのない読後感を感じられる。
“協奏曲”のラストのお話の結末がピアノの演奏なあたりに、
作者のこだわりが垣間見える。
まとめ
今回は、首折り男の協奏曲について解説した。
伊坂幸太郎の技が随所に感じられる
面白い短編集だったと思う。
好みが分かれる作品だが、
この作品が好きならば
他の伊坂作品も読んでみることをおすすめする。